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「 ただならぬ気配 」
 

 ただならぬ気配を感じて陽子はそっと身を起こした。
 夜明けにはまだ遠く、臥室は闇に包まれている。
 その闇の中、陽子は微かながらも確かな気配を感じていた。
 陽子は反射的に、枕元に置いていた水禺刀を引き寄せる。
 王宮の最奧、王の寝所に賊が忍び込むなどあってはならないことだが、今はそんなことを問題にしている場合ではない。陽子は五感の全てを研ぎ澄まして闇に潜む者の気配を伺った。厳重な警備をかいくぐってここまで侵入してきた相手だ。わずかでも気を抜けば、まず間違いなくやられるだろう。
 全身を支配する緊張感。しかし、闇に潜む者はいつまで経っても動く気配がなく、しかも次第にその気配は薄く不確かなものへとなっていく。そしてしまいには、思い違いだったのかと首をかしげたくなるほど闇の中の気配は消えた。
 陽子はいぶかしみながら、臥牀にかかる紗を剣先でそっとめくる。そこから覗いても見えるのはただ闇ばかり。
 だが陽子は、その闇がわずかに動くのを見た。
 再び全身を駆け抜ける緊張感。陽子は闇を睨み付け
 「―――誰だ」
 低く、威嚇するように誰何した。だが、闇の中からは何のいらえも返らない。ただ、ざわつくように闇の中にいる者の気配が増した。
 その瞬間、陽子はふとあることに気づく。感じた気配に覚えがあるような気がしたのだ。
 「お前、まさか―――か?」
 陽子が呼びかけて臥牀から滑り降りると、闇の中の気配はさらにざわついた。相変わらず応えはなかったが、そのざわつきが応えも同然だった。
 「ああ、やっぱり。こんな夜更けにどうした?何事か起きたか?」
 陽子は緊張を解いて闇の中に佇む気配に歩み寄った。
 緊急事態でも起きてここまで来たはいいが、女王の寝室に立ち入ってしまった非礼に今更ながらに戸惑いが生じたのだろう。陽子は今の現状をそういう風に解釈したのだ。
 手の触れる距離まで近寄れば、闇の中でも見慣れた姿が確認できた。
 「何が起きた?」
 陽子はもう一度問いかける。
 直後陽子は、きつくきつく抱きしめられていた。
 なに?
 問いかける間もなく、唇をふさがれる。熱く激しい口づけに陽子が喘ぐと、それを待っていたといわんばかりに舌が口内に侵入した。

 
     
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