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「思いの先 」
 

 ―――禁軍が動きました。
 その報告に浩瀚は思わず天を仰いだ。
 金波宮には未だ王の姿がない。なのに禁軍が動く。そのことの意味を浩瀚がわからないはずがなかった。
 時、赤楽二年二月。春の匂いを孕んで、空は憎らしいほどに青かった。
 「……慶は、ここまで腐っていたか」

 

 浩瀚の元に思わぬ報告が舞い込んだのは、それからまもなくのこと。現れた部下の顔を見て、さすがの浩瀚も驚きを隠すことは出来なかった。
 「桓魋!無事だったのか」
 「はい。主上に助けていただきました」
 その言葉に浩瀚の思考が一瞬固まる。
 「―――今、なんと?」
 「はい。乱の中に主上が混じっておいででした。もったいなくも直接お言葉を賜り、浩瀚様にも礼をおっしゃっておられました」
 「……」
 絶句し、二の句がつなげない。
 雁の王師を引き連れて偽王を討伐したと知った時から、ただならぬ王だとは思っていた。故に「信ぜよ」といい続けてきたのだが……。
 「主上から伝言です。『こんな愚かな王でも仕えてくれる気があるのなら、ぜひ堯天を訪ねてほしい』と」
  言って桓魋が、実に晴れ晴れしい笑顔を見せた。その笑顔にすべてを悟って、浩瀚はたまらず天を仰いだ。
 漏れそうになる笑みと、溢れそうになる涙をこらえながら。
 「桓魋!我々はついに至上の王を戴けたぞ!」
 見上げた空は、どこまでも青く澄んで、浩瀚の目に眩しくしみた。


 
     
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