「ここは州城の最奥。州候の許しを得た者しか立ち入ることが許されない場所」
女は陽子を横目で見ながらゆったりと笑った。その言い方があまりに艶を孕んでいて、陽子には意味深にしか聞こえなかった。
「・・・・・・その、つまり」
「公務にお疲れの州候を私的にお慰めするための場所。といえば、あなたにもわかるかしら?」
陽子の顔は見る見る真っ赤になった。つまりは目の前の女性は後宮に迎え入れられた女性で、浩瀚と非常に懇意で大人の関係にあるということなのだ。そして、大人の関係というのは、陽子にしてみれば考えるだけで恥ずかしかった。
「私は、そういう関係ではありません!」
湧き上がってきた羞恥心から、陽子は声を荒げてあわてて否定した。目の前にいる華やかな美人から見れば自分は子どももいいところだろう。そんな小娘が自分と同じ立場なのかもしれないと、きっとこの女性は腹を立てて様子を見に来たに違いない。そんな誤解は真っ平だし、恩人である浩瀚に対しても失礼な話だと陽子は思った。
「昨夜、松塾という義塾が火事になったのはご存知ですか?私はそこにお世話になっていて。火事に巻き込まれたところを浩瀚様に助けていただいたのです。少々込み入った事情から人目を避けなくてはいけなくて、それでおそらくこちらへ。なので、特別な関係とかそういうのではないんです。一時しのぎというか、急なことだったから、きっとここへつれてくるのが一番手っ取り早かったんだと」
陽子が一気にまくし立てると、女は一瞬驚いたように目を見開いた。しかし直ぐに悠然とした笑みを見せると「かわいらしい方ね」と呟く。
女の様子に陽子は説明不足だったかと更に言葉をたそうとしたが、口を開きかけたところで女にそれを制された。白くて長い指が、陽子の唇の前に立てられる。
「あなたが来た経緯はわかったわよ。どういう事情があるかもね」
しかし、と女は続けた。
「あなた知っているかしら?先日この国の王がね、女性はみんな国から出て行くようにっていう勅をお出しになったのよ。それで後宮にいる女性にも荷物をまとめて一日も早く州城から出て行くようにとお達しがあったわ。噂では、州城の女性官吏たちも城から出す準備が進んでいるみたい。ま、いつまでも城内に女性がいたら州候が匿っているように見えるものね。当然の対応だと思うわ」
陽子は戸惑いを隠しきれずに女を見つめた。何を言っているのかは理解できたが、何の話をしているのかさっぱりわからなかった。
「そんな時期にあなたを城内に、しかも候の私的な場所である後宮につれてくるなんて、候は一体何をお考えなのかしら?」
女の笑みは嫌味なのか、はたまた好奇心なのか。ただ親切心にだけは見えなかった。
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