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   「気になりますか?」
 店の前で娘と別れ、その背が見えなくなるまで見送って、ついふうっと息を吐けば、心の内を見透かしたかのように浩瀚が問うた。
 その問いかけに、陽子は肩をすくめて振り返る。
 「そりゃあ、ね」
 あれだけのわけあり顔。しかも州府の前で揉めていたのだ。気にならないわけがない。
 「だけど、無理に口を開かせることはできない」
 「さようですね」
 頷く浩瀚に、陽子は再度息を吐く。
 至極もっともな返答だ。
 「ただ、あの娘の身元には少々思い当るところがございます」
 「は?」
 さらりと続けられた言葉に陽子は視線を上げて浩瀚を見た。
 なぜ?
 きょとんと見返せば、浩瀚は何事か考えるような様子を見せながら小さく告げた。
 「ここで立ち話でもなんですので、場所を移しましょう」
 わかった、と陽子は首肯した。


 浩瀚が陽子を案内した場所は、翠嵐楼という宿だった。浩瀚が店主に声を掛ければ、すぐに部屋へと通された。
 かなり高級な宿だ。広い部屋には高そうな家具が並び、寝室が三つに風呂まで付いている。蓬莱で言う所のスイートルームだ。……泊まったことはないが。
 「なんとも贅沢な宿だな」
 陽子が部屋を見回って感心したように呟けば、浩瀚はくすりと苦笑を浮かべてから椅子を勧めた。ちょうど宿の奚が茶を運んできて、浩瀚が受け取る。奚を下げさせて浩瀚がいつも見せる優雅な手つきで茶を入れれば、辺りには馥郁とした香りが漂った。
 「どうぞ」
 差し出された茶器を受け取って、陽子は茶を口に含む。思いのほか乾いていたらしい喉に茶はじわりと染みわたった。さわやかな喉越し。こんな暑い日にはぴったりの茶だ。いつも飲む茶とは少し違うから宣州特有の茶なのかもしれない。
 「それで?季容の身元に心当たりがあるってどういうことだ?」
 茶杯を空けて、身を乗り出すように卓上で腕を組む。急かすような陽子の口調とは対照的に、浩瀚はゆっくりと説明を始めた。
 「宣州伯牧からあの書状が届き、主上が大層宣州のことを気にされていらっしゃったので、私としましても少々宣州のことを調べたのです」
 その前置きに、そりゃそうだろう、と陽子は頷く。何事にもぬかりない浩瀚だ。調べないはずがない。
 それで、と視線で先を促せば浩瀚は小さく頷いて先を続けた。
 「その時出てきた情報の中に宣州で起きた蜂蜜事件というものがあったのです。なんでも州府に納められていた蜂蜜に加水されていたのだとか」
 「加水?」
 「つまりは水増しです。蜂蜜を水増しして商人が不正に利益を得ていたのです」
 浩瀚はそう告げると事件の全容を説明した。
 宣州でその事件が起きたのは、年が明けて間もない頃のことだという。
 異変に最初に気付いたのは、州府の膳夫を務める可韓という男。膳夫は州府の台所を預かる、いわば料理人であると同時に、庖人を指揮する料理長だ。州府で出される食事に采配を振るい、食材の選定や味付けにも責を負う。可韓は、納められた品の鮮度や品質にも細やかに気を配る生真面目な男、使う食材は必ず味見をしていたという。ゆえに彼が最初に気付いたのだ。
 ―――蜂蜜の味がおかしい、と。
 そして調べた結果、蜂蜜に加水されていたことが明るみになったのだ。
 「州府に蜂蜜を納めていたのは、夏句(かく)という男です。そしてその男の娘の名が、確か季容だったと」
 「―――なんだって?」
 陽子は軽く瞠目した。
 「……しかし、それでなぜ季容が役人と揉める?季容にも何か疑いが?」
 「さて。ただ、州官の取り調べに対して夏句は無実を訴えております。最後まで自白を得られないまま罪は確定したようです」
 「下った判決は?」
 「笞杖(ひゃくたたき)と不正で得た利益分の罰金」
 その返答に陽子は小さく息をついた。
 もし罪が事実なら、その判決は至極適当なものだ。州府が法を曲げて過酷な罰を民に与えたというわけではないようだ。
 「ひょっとすると季容は、父の無実を信じているのだろうか」
 そうであるとするならば、陽子と出会った時、季容は父の無実を州府に訴えていたのかもしれない。しかし州府は相手にせず、季容を門前払いにした。
 「取り調べに不備はなかったのか?」
 「現在得ている情報の中では、特に問題はなかったかと。ですが、詳細までつかんでいるわけではありませんので、現段階では何とも申し上げられません。正直、大事にするほどのことでもあるまいと、あまり気に止めておりませんでしたので」
 「ま、それはしかたないな」
 陽子は神妙な顔をして頷く。ただでさえ多忙な冢宰だ。地方の小さな詐欺事件などいちいち気にして詳細を調べていては、いくつ身があっても足りない。
 「気になるのであれば、宣州秋官府の判録を取り寄せることもできますが?」
 「そこまでしては大ごとすぎるだろう。だが気になるな」
 「何がでしょうか」
 「季容の父は自分を慶国一の養蜂家だと自負していたんだろう。そんな人が加水なんてけちな真似して信頼を失うようなことするかな」
 「慶国一だと自負していたからこそ、注文された数をきちんとそろえられないと矜持が許さないと考えたかもしれませんよ」
 「あ、なるほど」
 陽子は納得したように呟いた。加水は何も営利目的だったとは限らないわけだ。だったら、最後まで自白しなかったというのも説明でき、娘にも真実を打ち明けなかった可能性も十分ありえる。
 「でも、すべては想像の範囲なんだよなぁ」
 「さようですね」
 浩瀚はさらりと言って、茶をひとくち口に含んだ。
 「気になるようであれば、そちらも調べてみましょう」
 「そちらも?」
 浩瀚の言いようが気になって小さく首を傾げれば、浩瀚は小さく笑った。
 「実は私も宣州には少々気になることがございまして、主上のご視察に同行させていただいたのです」
 「なんだって?」
 ということは、私はだしに使われたのか?とちょっと心中複雑な気がしたが、浩瀚を責められる立場でもないような気がして、もたげた不満はそのまま黙って飲み込んだ。
 「それに、たまには主上とこうして外に出るのも良いかと思いましたし」
 「……。で、お前は何が気になっているんだ」
 怜悧なこいつが気にするとは、よほどのことに違いない。続けられた台詞は聞き流して、陽子が視線を向ければ、浩瀚はわずかに苦笑した。
 「それについては、桓魋の帰りを待ちましょう。ひょっとすると、何か情報を持ち帰って来るかもしれません」
 「桓魋?来てるのか?」
 「先に宣州入りさせております」
 さも当たり前だという顔の浩瀚に、陽子は苦笑するしかなかった。


◇     ◇     ◇


 桓魋が戻ってきたのは、もう日が暮れようかという時分であった。粗末な袍を纏い人懐っこい笑みを浮かべる桓魋はとても禁軍将軍には見えなかったが、それでも軍人気質は健在と見えて、二人の姿を認めると桓魋はいつものような機敏な動きで拱手した。
 「ただ今戻りました」
 「お疲れ、桓魋
 「主上よりねぎらっていただけるとは恐縮です」
 陽子が椅子を示せば、桓魋はにっこりと笑って席に着いた。
 「お二人とも、予定どおりご到着なさったようですね。道中何事もなかったですか?」
 「ああ、問題なかったぞ」
 「馬車はいかがでした?」
 「運行に問題はなさそうだが、乗り心地はまだまだ改良の余地ありだな」
 「まあ、今使っているのはほとんどが荷馬車の転用ですからね」
 「それに、馬車に乗らずに歩いている人も多かった」
 陽子が道中を振り返って呟けば、桓魋は頷く。
 「慶にはまだ、歩けるのに馬車賃を払うなんてもったいないと思う人も多いかもしれませんね」
 「しかし、駅馬車が整備されて確実に便は良くなりました。便が良くなればおのずと人や物が動くようになり、市場が活性化します。馬車の乗り心地は、乗客が増えていくのに合わせて徐々に改善していけばよいでしょう」
 「そうだな。何事も急いてはならない、だったな、先生」
 陽子が悪戯っぽく笑えば、浩瀚はわずかに苦笑した。
 「さようでございます。それで桓魋、指示していたことについては何か進展があったか?」
 浩瀚が話題を変えれば、桓魋はわずかに姿勢を正した。
 「ひと通り調べてみたところでは、やはり曹家とやらはここ東遼では絶大な影響力を持っているようですね。曹家を無視して東遼で商売などできないというのが東遼での常識のようです」
 「なるほど」
 「曹家って?」
 二人の話が見えずに陽子が首を傾げれば、「東遼にある豪商ですよ」と浩瀚が説明した。
 「その、曹家が何か問題なのか?」
 「問題があるのかどうかを桓魋に探らせていたのです」
 「ふぅん。で、何か問題があったのか?」
 陽子が視線を向ければ、桓魋は「さて、どうでしょうか」とわずかに首をかしげた。
 「東遼には商業者組合というものがあって、東遼で商売をしようと思ったらその組合に加盟しなければならないのですが、その元締めが曹家でしてね」
 「うん、それで?」
 「元締めという立場を利用して、不正な利益を得てはいやしないかと、まあそういったことを調べてきたわけです」
 「なるほど。で、それでどうだったんだ」
 「その前に、主上は組合というものをご存知ですか?」
 陽子の問いかけに、桓魋は質問でもって答えた。そのことにふと引っ掛かるものを感じながらも陽子は答える。
 「組合?同じ業種の者たちが組織している団体のことか?秩序維持のため自分たちで決まりを作ったり、資本金を出資して相互扶助を行ったり」
 「まあ、そうですね」
 桓魋が頷く。
 「そういった組合はどこにでもありますし、組合そのものが悪いわけでもありません。でもたまに、ごく一部のものだけが儲かるような仕組みになってしまっていることもありますし、裏社会とくっついて役所もなかなか手を出せない組織になっていることもあります。また逆に、役所と癒着している場合もありますが」
 桓魋の最後の言葉に陽子はわずかに眉をしかめて浩瀚を見た。浩瀚がわざわざ桓魋に調べさせたほどだ、やはり宣州府には何か問題があるに違いない。そんな思いが強くなる。だが浩瀚は何も言わず視線だけで桓魋に先を促した。
 「曹家のやり方はとても明確です。東遼で商売をしようと思ったら、まず曹家が元締めをしている商業者組合に加盟する必要があります。加盟金を納めるのです。すると、曹家から仕事を割り振られ商売が成立するというわけです。というのも曹家は州府御用達の大商人でしてね。東遼で取引されている商品の多くは州府が買い上げているものなのです。目立った産業もなく、交通の要所でもないここでは州府を相手にするのが一番儲かるんですよ」
 桓魋に説明に、陽子は必死に得た情報を整理して呟く。
 「つまりは、曹家が州府からの注文を取りまとめ、組合加盟店に注文品を割り振っていくわけだな」
 「そのとおりです。そして、州府からの注文となればどうしたって大口になりますし、発注数も安定し支払いも確か。これほどいい商売相手はないというわけです。商人たちも組合に加盟して安定した商売をすることを望むというわけです」
 「かわりに曹家の顔色をうかがい続ける必要が生じるというわけだな」
 「そうなりますね」
 桓魋は軽く肩をすくめた。
 「ここ宣州では、州府御用の品はすべて曹家を経由するようです。どんな品も曹家に注文を出せばあとは曹家が手配するのです。州府としても便利な相手でしょうね。商人選定をするのは結構な手間ですし、大口になれば同じ商品をいくつもの商人から買わなければいけないということも生じます。その面倒を引き受け、何かあれば責任を押し付ければいいという相手は州府としても手放したくはないでしょう」
 「……つまりはあってはならない癒着がある可能性がある?」
 陽子の鋭い指摘に桓魋は笑みを浮かべた。
 「残念ながら今のところその証拠はつかめておりませんけどね」


 「桓魋はひとつ勘違いをしている」
 桓魋の説明をひと通り聞き終わると、浩瀚は涼しげな表情で指摘した。
 どういうことか、と陽子が視線を向けると、浩瀚はおもむろに問う。
 「主上は、給使という役職をご存知でしょうか」
 「たしか王宮に入れる食材を選定している官じゃなかったかな」
 陽子が記憶をたどって答えれば、浩瀚は「その通りです」とうなずいた。
 「実際に食料品を扱っているのは天官所属の膳部らですが、食料品の購入に関しては膳部の要請を受けて給使が行っております。給使は左右内設けられ、左給使は主に野菜や果物、あるいは香辛料といった類を、右給使は肉や魚などの選定を行います。そして左右の給使が選定したものを内給使が記録するのですが」
 浩瀚はそこまで言って言葉を切る。そして一拍の間をおいて静かに続けた。
 「州府には給使はおらず、舎人のみが置かれております」
 「舎人?」
 「給使と同じく地官に属する官吏です。国府で舎人は給使に下に置かれ、給使を補佐すると同時に取引先の選出を行っているのです。ですが、給使のない州府では給使の仕事も一括して舎人が行っているのです」
 「随分と大変そうな職だな。ひとりで足りるのか?」
 陽子は問う。実際の職務には下官など多くの補助がついて行われているのだろうが、職務の責任者はひとりなのだ。想像するだけで責任が重い。
 「逆にいえばひとりで事足りるので州府では給使を置かないのです。王宮と州府では、規模がまるで違いますから」
 「へぇ」
 そうなのか、と陽子は感心したように頷いた。
 「つまり舎人は、州府の食料品の購入に関しては、膳部より要請を受けて、商品を注文する商人の選定から納入された商品の点検までを一気に引き受けるのです」
 「ってことは、つまり季容の父の蜂蜜を購入すると決めたのも、その舎人の決定したことだというわけだな」
 「ということになります」
 ですが、と浩瀚はわずかに渋い顔をした。
 「州府の記録を調べると、舎人が選定した商人は多岐にわたります。少なくとも帳簿上は。しかし実際の取引相手は曹家しかないのです」
 それで桓魋が得てきた情報とつなぎ合わせるとこういうことになるだろうと、浩瀚は指摘した。
 曹家は州府からの注文を一括して受け、色々な商人から商品を買い付け州府に納める。その時取引相手になるのが組合に加盟している商人だ。要は組合に加盟している東遼の商人たちは、曹家が州府から受けた注文の下請けをしているような形になる。しかし帳簿上はそれぞれの商人と州府が直接取引をしていることになっているから、曹家はただ仲介しているだけということになるのだ。
 「つまりは、舎人は自分がすべき仕事をすべて曹家に丸投げしている形になります。そして曹家は自分たちの立場の優位性を利用して組合という形を作り、組合費という名の上納金を納めさせていることになるのです。舎人が自らの仕事をきちんとしていれば、少なくとも東遼にある形の組合など必要なく、東遼の商人たちも組合に加盟する必要もないはずです。さらには曹家という仲介をはさむことでどうしたって商品は値上がりし、州府は余計な支出を強いられることになります。舎人と曹家の間に賄賂があろうが無かろうが、すでに現状が問題なのです。―――実は、このことについてはすでに宣州伯牧から報告が届いておりました」
 「なんだって?」
 初耳のことに陽子は驚いて声上げた。どうして報告がないんだ、と息まくと浩瀚はさらりと言う。
 「これだけでは主上にご報告するまでもない事態だったからです。州の問題は州侯の領分。主上は州がきちんと収まっていればそれで良しとすべきであり、それでも不可となさるなら主上のなさることは州侯を罷免し新たな州侯を立てることです。舎人の仕事ぶりに問題があるならそれを正すべきは州侯の職分ということになります」
 「じゃあ、何で伯牧はわざわざそれをお前に知らせてきたんだ」
 「伯牧が報告してきたのは、舎人がどうこうというより、その問題を宣州侯に指摘したときの宣州侯の態度に不審を感じたからです。『このような事態を侯は放っておくおつもりか』と問いただしたところ、『郷に入っては郷に従え。土地土地のやり方があるのだから、型にはめるだけが正しいやり方とは限らない』と一蹴したと言います。それでもしや宣州侯がこの状況から賄賂を得ているのではないかと伯牧は疑ったのです」
 「じゃあ、十分問題じゃないか」
 「しかし伯牧の疑いは、伯牧の想像の範疇を越えず、証拠となるものは何もありません。ですので、まだ主上にご報告申し上げる段階ではないと判断したのです。それに宣州侯の言いようも一理あるのは確か。型にはめることですべてがうまく行くのならそんなに楽なことはないのです。ですので、実際問題があるのかないのか、少しでも証拠となるものがつかめるならと今回こうしてわざわざ宣州まで参ったわけです」
 とはいえ、主上がご視察に出られなければ私も金波宮でおとなしく報告を待つつもりでおりましたが、と付け加えられては、陽子はぐっと言葉を詰まらせるしかなかった。
 「お前の言いたいことは理解した。宣州でとんでもない悪習が常態化し、それに州侯が関与しているのか否か、それを突き止めることが目下の目的というわけだな」
 「志があっても人材に恵まれなければ濁に飲まれることもあるのです。宣州府の実態がどうであるのか、そのなかで宣州侯がどんな立場にあるのか、それがはっきりせねば主上は気がお済ではないでしょう」
 「確かにね」
 陽子は呟く。
 「しかしそうなると、季容の父上の件も何か絡んでくる気がするな。さっきの話を当てはめるとさ、季容の父は州府に蜂蜜を治めていたけど、実際は曹家に卸し、曹家を介して州府に納められていたことになるんだろう」
 「おそらくそうなるかと」
 「だったらさ、蜂蜜に問題があった場合は、仲介した曹家も疑われて当然だとういう気もするが、そこがどうなっているんだろうな。曹家に全く捜査の手が入っていないなら、官吏と曹家との間にあってはならない親密な関係がある可能性を疑わないわけにはいかなくなるような気がするが」
 「その通りにございます」
 浩瀚は頷いて、そこに気づいた陽子に満足するかのようにほほ笑んだ。
 「どのように捜査がなされたのかは、すぐに調べられます。明日にはご報告できるよう手配いたしましょう」
 得意そうな浩瀚のその様子に、陽子はわずかに苦笑を浮かべながら頷いた。


 そして翌日、陽子はもたらされた報告に顔をしかめた。
 蜂蜜事件において曹家は疑われるどころか全く捜査されていなかったのだ。その理由はというと、曹家は商品を仲介しているだけであり商品の品質にまで責を負わない、という建前上の理由がひとつと、蜂蜜に加水して得られる利は曹家にしてみれば微々たるものに過ぎず、そんなことをする動機がないという理由によるものだった。
 そしてそれらすべては、宣州秋官によって正式な手続きによって処理されていたのである。
 曹家に仕事を丸投げしているとしか言えない舎人。州府との取引の一切を請け負い、宣州東遼の商売を牛耳っている曹家。そんな曹家を事実上野放しにしている秋官に、その関係を放置し、近頃一切表に姿を見せることがなくなった宣州侯。
 もはや宣州になにか問題があるのは明らかであった。

 
 

  
 
 
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